抄録
本研究は、広島平和記念資料館における原爆資料の展示の実態とそれにまつわる人々の実践に関する文化人類学的な考察を通して、人々が展示に関与していくことは原爆体験の継承にどのような意味を持つのかを論じ、原爆体験の展示の在り方を再検討する。 広島平和記念資料館は、1955年に開館されてから、広島市において原爆被爆資料の収集、保存、展示などを行う公式的博物館であり、原爆体験の公的記憶を表象するだけでなく、その意味を構築してきた。それに、原爆体験者の高齢化と人数の減少による原爆体験の風化を懸念し、原爆資料の収集の強化に加え、被爆証言者による証言活動やヒロシマ・ピースボランティアガイドの案内活動などを展開している。これによって、従来の博物館におけるモノの見学場所を提供するだけでなく、来館者にモノと語り(証言または解説)という二重の擬似体験を与え、モノを介する新な関係を結ぶこととなる。 本研究は、広島平和記念資料館は、原爆体験の公的意味を表象し、構築する装置であることを念頭に置きながら、展示されるモノとそれにまつわる様々な人々の相互的関係の在り方を考察する。これは、従来研究に提起される博物館の集合性と政治性を解体する作業にとどまらず、これから原爆資料の展示の在り方と原爆体験の継承の可能性を提示するものである。