抄録
2009年3月、ラオス史上初の旅客鉄道が開通した。東南アジア唯一の内陸国であり、交通インフラが未発達の国であるとされてきたラオスにとって鉄道の開通は歴史的出来事であった。だがこの鉄道の利用率は極めて低く、駅は地理的に隔離された場所に位置し、他の交通機関と接続していない上にラオス国内に駅は一つしかない。交通インフラと呼ぶのもはばかれるようなこの鉄道の断絶性は、単に開発の失敗例として結論付けられるものなのだろうか。本発表では近年のインフラストラクチャーの人類学の議論を参照しながら、この鉄道のインフラ施設というモノとしての側面と、システムという関係そのものとしての側面に注目し、当該の鉄道を捉えるための視点を提示する。