抄録
本発表の第一の目的は、台湾二二八事件に巻き込まれ「犠牲」になった南西諸島出身の行方不明者の家系記録を手がかりにして、遺族が、彼/彼女たちの社会的文化的な意味づけを通してどのように近親者が経験した悲劇を表現してきたかについて実証的かつ多面的に解明することにある。第二の目的は、その意味づけの過程で模索された人びとの工夫を検討することを通して、男性成員の喪失による父系出自集団維持の危機にどのように対処し、その危機を乗り越えることができたのかについて考察する。こうした父系出自集団レベルにおいて創造・蓄積し、運用されてきた記載実践から、日常生活の戦略と絡み合って行われてきた死後処理のダイナミズムを解明し、歴史に描かれることのない暴力の被害者たちの記憶を保持し継承する民衆の生活知の可能性を展望する。具体的には、遺族によって書き記されてきた除籍謄本と位牌、厨子甕上の記録についての相互比較分析を試みる。