抄録
本発表は、自由を強調するモンの理念を「エスノリベラリズム」と名付け、その上でこの理念がどのような実践上の矛盾をはらんでいるかを検討する。そのために、フランス在住のモン農民男性がホームランドに旅して若い女性と結婚するという現象と、彼らが営む農業がネオリベラルな管理に取り込まれつつある状況という、一見すると結びつかない二つの事例を取り上げる。両事例の検討からは、他者の従属によって成り立つ自由な主体という矛盾の構図が、女性と男性、農民と大手小売業者という異なるレベルで繰り返しあらわれることが明らかになる。その分析から、エスノリベラリズムとより広いリベラリズムを接合するための視点を本発表は提出する。