場の科学
Online ISSN : 2434-3766
第一部: 資源循環の社会実装に必要な仕組みの設計  第二部: 資源循環のローカルシステム:全体と個別に係る検討
柳田 泰宏木下 裕介山下 勝仲上 祐斗
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キーワード: 鼎談
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2023 年 2 巻 3 号 p. 63-96

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抄録
今般の鼎談は、特に近年取組が加速されているプラスチック資源循環を念頭に、資源循環が社会実装されるための仕組みの設計を検討するために実施した。 第一部では、資源循環が必要とされる背景や社会実装に向けた課題について、近年の動向を基に、仕組みの設計の要点を検討した。設計にあたっては、最終消費者を含む動静脈や行政といったステークホルダーそれぞれが行動変容を誘導するWell-beingな社会システムの設計に加え、効率的かつ最適化を行うためのデジタルプラットフォームも重要と考察された。 第二部では、資源循環は、ローカルシステムでの実施が前提となっているものの、個別に取り組んでいると効率化できないため、ローカルシステムの取組を全体システムの取組とどのように進めていくことが良いかを検討した。産業として見たときに日本にとって魅力的であり、日本が各国と同様に多くの課題を有する領域でもある、都市部におけるオフィスビルのプラスチック資源のリサイクルというローカルシステムでの検討が、LCAにおける必要データの分析など全体システムの設計に寄与することが、示唆された。 【第一部の概要】資源循環の社会実装に必要な仕組みの設計 1.資源循環の場の繋がりが重要である 垂直統合型が成り立つ余地はなく、多様なステークホルダーが関わる必然性を有するのが、資源循環である。資源循環においては、最低限、提供者のみではなく、ユーザーが含まれるためである。通常は、メーカーや小売などの動脈事業者と静脈事業者が異なり、廃棄物行政やその他のバリューチェーンの関与も生じている。一つの製品群におけるバリューチェーンでも、それぞれの場の繋がりが重要であり、複数の製品群が同時に回収されるため、更に場の繋がりが重要となる。 2.プラスチック資源循環においてもステークホルダーは多様であり、消費者の行動変容を誘導する社会システムの設計が必要になる プラスチックの場合は、全世界に十分に普及しており、最終消費者は一般市民も多く含まれる。プラスチックの回収は最終消費者の関与なくして成り立たないが、最終消費者も使用済みプラスチックをいつまでも所有したくはなく、通常はなんらかの形で廃棄・回収している。この際に、最終消費者がプラスチックをより高度な循環を行いやすい形で、循環ルートに提供してもらうことで、プラスチック資源循環の効率は上がる。この最終消費者の行動変容をインセンティブ付与・規範・規制・コスト付加といった社会システムとして技術開発の進捗と協調して設計していくことも必要になる。 3. サーキュラーエコノミー(CE; Circular Economy)は産業経済政策の基軸である プラスチック資源循環に関しても新旧の技術導入・交代が加速し、技術のベストミックスが推進されるであろう。資源循環を社会実装するための枠組み、例えば、不確実性の許容度(≒その人が取り得るリスク)に関わる対話(ナレッジ・ナラティブ)の枠組みを設計し、新たな価値をモニタリングできるような評価指標を導入することも必要になる。CEは既存のリニア型の経済を破壊的に置き換えるため、置き換えによって新たに生じるグローバルな産業・市場を国としてどのように獲得するのか、動静脈両面で政策的に取り組むことも必要になる。 4. デジタルプラットフォーム活用型のCEビジネスを構想することが求められる ライフサイクル設計、シナリオ設計、ビジネス・サービス設計、各設計支援のための三要素を組み込んだツール(道具)開発は急務である。システマティックな思考、品質保証許容値に係るロバスト性、心理的ハードルに関するシナリオなどを加味した多段階の合意形成に資する共有ツールが必要になる。CEビジネスの構想自体が発展途上であるため、CEビジネスの構想と両輪でデジタルプラットフォームの整備を行うことが、今後のCEビジネスでの競争力の源泉になる可能性を秘めている。 5. CEは多くの人々の生活をより良い状態(Well-being)にする。 CEは経済モデルの変革であり、経済原理の一つであるWell-beingも含まれる必要がある。しかしながら、CEでWell-beingになるイメージを持つ消費者は少ないだろう。CEにおけるWell-beingを含めた社会システム設計が今後必要になり、CEが自律的に駆動していくためのキーポイントとなる。 【第二部の概要】資源循環のローカルシステム:全体と個別に係る検討 1.日本及び都内オフィスビルというローカルシステムにおける資源循環システム設計は発展途上である。 島国であり資源環境制約への対応という観点で、日本にとっては特にCEが重要である。プラスチックを悪者にするのではなく、どう付き合っていくかという観点では、ライフサイクル全体として考えていくことが肝要であるが、現状では、静脈におけるマテリアルリサイクルとケミカルリサイクルがシームレスにつながってさえいない。このため、静脈における技術開発を推進している最中であり、ゴミに関する静脈と動脈の機運醸成という観点も含め、システム設計の最中といえる。こういった活動において、オフィスビルに関して、単一素材の資源循環システムや見える化の良い事例が少しずつ出てきている。こうした事例も踏まえ、メンテナンス・リファービッシュも含めた資源を徹底的に使い倒す資源循環システムを設計していくことが望まれている。 2.ローカルシステムのみではなく、産業としての発展という全体像を踏まえた戦略的な検討が重要である。 日本国内のみで納得感が得られる取組というのは、通用しない。資源循環技術に関しても日本国内市場向けのみではなく、海外市場も取れるように産業としての発展を考慮すべきである。ローカルシステムとしての設計と開発を行うのは目的ではなく、ローカルシステムの事例を以って大きなインパクトをもたらすことを目的にしてローカルシステムと向き合う。全体と個別を両にらみしながらも、あくまで全体を解決することに本気で向き合うという前提で、どのタイミングで何を優先するかという戦略的な検討が重要である。 3.将来のローカルシステムの構想におけるデータの不確実性と現状データの把握を走りながら実施する。 シナリオ分析型のLCAによる将来シナリオについてベースラインの比較や、未来予測型のLCAで将来技術に関する効果の事前予測を行う方法は存在する。一方で、将来データの不確実性と現状データの把握が課題となる。オフィスビルに関しては自治体ベースがデータを持っている可能性はあるものの、統一的な取組ではないため課題がある。そもそもどのようなデータが必要かというのも未設計であり、走りながら修正を加えながらやるしかない。
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© 2023 協創&競争サステナビリティ学会
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