2023 年 3 巻 1 号 p. 26-41
本稿は、台湾原住民族の伝統的な知的創造の保護の枠組みを素材として、関連制度設計の在り方について検討したものである。一般的な知的創造は、多くの国や地域において知的財産法で保護されているが、知的財産法の法目的は、その多くが「産業の発達」や「文化の発展」又は「市場秩序の維持」にある。一方、先住民族の伝統的な知的創造は、一定の範囲において特定の部族により数百年の長い年月をかけて形成されたもので、先住民族の文化やアイデンティティ(自己同一性)そのものである。先住民族のこのような知的創造は、単一の価値を基準としては図り切れないはずであり、これを客体とする制度設計はその特性を踏まえたものでないと適切な保護が実現できない。台湾では、原住民族の伝統的な知的創造の特性を踏まえて特別(sui generis)立法を行い、専門機関を設けて運用しているが、本稿では当該特別立法を念頭に、事例研究も踏まえて諸課題を取りまとめた。