禁煙科学
Online ISSN : 1883-3926
働く世代の男性の禁煙後の体重増加メタボリックシンドロームに及ぼす影響
富永 典子 高橋 裕子
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ジャーナル オープンアクセス

2010 年 vol.3 巻 03 号 p. 14-22

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抄録
目的:健康寿命の延伸や医療費の適正化には、肥満の更正や運動習慣の獲得に加えて喫煙対策が重要である。2008年度からメタボリックシンドロームに特化した対策が医療保険者に義務化となり、その中では、特定保健指導の選択条件に喫煙習慣が加わり、禁煙推進もまたこの対策の要となった。しかしながら一方では、禁煙後の体重増加は禁煙開始、または禁煙の継続を困難にする要因としての指摘がある。そこで本研究では、禁煙が体重増加および肥満関連指標に及ぼす影響について検討を行った。
方法:2004~2007年度の職域での健康診断時にライフスタイル調査(回答率62.0~67.4%)を実施した。2年続けて回答した者のうち、ベースラインで糖尿病、高血圧、脂質異常で治療中、または要治療と判断された者、臨床上、減量の必要性がないやせ体型(BMI<18.5kg/m2)の者を除いた男性1,095名(年齢42±10歳、BMI 23.5±2.9 kg/m2)を解析対象とし、1年後の喫煙習慣の変化により①非喫煙群(418名)、②喫煙継続群(603名)、③禁煙群(43名)、④再喫煙群(31名)の4群に分けた。調査では、減量意識ステージと、生活習慣(喫煙、朝食、間食、脂肪、野菜、睡眠時間、運動習慣、飲酒、主観的ストレス感)について質問した。減量意識ステージが1年後に上位ステージの準備期または行動期に進んだ場合を上位変化群、それ以外を対照群とし、1年後の体重変化について各4群で上位変化群と対照群とを比較検討した。1年後の体重変化と、BMIおよび各肥満関連指標、リスク構成因子数(高血圧、脂質異常、耐糖能異常の3項目の有所見数)、健康習慣数の1年後の変化との相関関係を検討し、そして全項目について4群間で比較検討した。各群の体重変化に関与する生活習慣の変化を検討するため、1年後の体重変化を従属変数、喫煙習慣を除く各生活習慣の変化を説明変数とした重回帰分析を行なった。
結果:非喫煙群および喫煙継続群では、1年後の減量意識ステージが上位の準備期または行動期に進んだ上位変化群の体重は対照群に比べ有意に減少したが、禁煙群および再喫煙群では有意な変化は認められなかった。非喫煙群と喫煙継続群では、1年後の体重増加と拡張期血圧および収縮期血圧、肝機能、総コレステロール、中性脂肪、リスク構成因子数が有意な正の相関関係に、HDLコレステロールが有意な負の相関関係にあった。禁煙群では、GPTおよびγ-GTP、HbA1c、総コレステロール、リスク構成因子数、健康習慣数が体重増加と有意な正の相関関係となり、再喫煙群では、GPTおよびγ-GTP、総コレステロールの値が体重増加と有意な正の相関関係となった。非喫煙群に比べ禁煙群の1年後の体重およびBMI、γ-GTPが有意に増加した。また空腹時血糖値は、禁煙群が非喫煙群および喫煙継続比べ有意に増加したが、HbA1cの変化に4群間で有意な差は認められなかった。健康習慣数およびリスク構成因子数の変化に4群間で有意な差は認められなかった 重回帰分析の結果、1年後の体重減少に関与する有意な要因として、全体では「脂肪をひかえた食事」および「多大な主観的ストレス感」の増加が、非喫煙群では「脂肪をひかえた食事」および「1日平均9時間以内の労働時間」および「多大な主観的ストレス感」の増加が、喫煙継続群では「間食はほとんどとらない」および「脂肪をひかえた食事」および「適度な運動習慣」の増加が認められた。禁煙群では、「節制飲酒」および「適度な運動習慣」の増加が体重増加と影響していたが、分散分析では有意差は認められなかった。再喫煙群では、体重増減に関する有意な生活習慣の変化は認められなかった。
結論:禁煙後のメタボリックシンドロームのリスク構成因子を悪化させる体重増加には、年齢や飲酒習慣を含めた食習慣や運動習慣など禁煙以外の生活習慣の変化による影響が大きいことが示唆された。
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© 2010 日本禁煙科学会
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