抄録
要 旨
背景・目的:禁煙後の血糖値の経年変化については、禁煙後短期に血糖値が増加するとの報告が散見されるが、5年以上
の長期にわたる経年変化の報告は見られていない。そこで禁煙後の長期的な血糖値の変化を明らかにすることを目的とし
て、禁煙群と喫煙群の10年間の血糖値の経年変化を検討した。
方法:男性勤労者の定期健康診断の結果を用いて、禁煙後10年間の経年的な血糖値の変化を調査し考究した。
結果:禁煙群の血糖値の平均値は、1年目と3年目にはベースライン年度の血糖値と比較して増加を示したが、5年目以降
は徐々に減少し、10年目は他の年に比べ最も低値を示した。個人ごとの血糖値の変化では、5年目にベースライン年度に
比べて血糖値が減少していた5名(33.3%)、は、10年目に至るまで血糖値がベースライン年度より低値であった。一
方、ベースライン年度に比べ5年目の血糖値が高値であった10名では、10年目には5年目と比べて血糖値は減少するが、
ベースライン年度を下回るものはみられなかった。喫煙群においては、血糖値の平均値はベースライン翌年から増加し、
10年目には最も高値を示した。個人ごとの血糖値の変化では、5年目には18名 (52.9%) 、10年目には22 名(64.7%) が
ベースライン年度より高値を示した。
結論:禁煙後、血糖値は一時期高値を示しても増加がみられず、糖尿病の発症リスクは高いとは言い切れないことが示さ
れた。喫煙群の血糖値は、喫煙習慣を継続する間、増加し続けた。長期的な喫煙で血糖値が悪化し、糖尿病発症のリスク
が大きくなることが示唆された。