2017 年 15 巻 1 号 p. 1-15
津波や河川洪水など、その発生までに時間的猶予が存在する災害において、今が避難するほどの災害時なのか否かの判断ができず、情報検索行動に走る結果として「避難していない」状態に留まる住民は多く観測されることである。本稿は、このような住民をそのまま「避難していない」状態にとどめておくのではなく、結果として「避難している」状態に誘導するための方策について考察・検討を試みるものである。
従来にも同様の問題意識のもとでの多くの検討や提言はあるが、「情報検索行動が避難行動を阻害する」という個人内の負の心理作用の存在は不可避として扱い、それ以外の条件を整えることに主眼を置くものが多くを占めている。これに対して本稿では、その心理プロセスの存在を「不可避」として考察の対象から除外するのではなく、いまいちどそのロジックの記述を試みるとともに、そこにおける政策的に操作可能な変数・要因を探索・抽出することにより、新たな「結果として“避難している”状態に誘導するための方策の方向性」を見出したい、ということが主たる問題意識である。ここではまず、簡便な数理モデルによる記述を試み、そのうえで、たとえば住民の情報検索欲求を十分に満たすような避難所の整備などが可能であるならば、従前ならば「避難しない」状態に留まっていた住民の多くを「避難する」状態へと誘導できる可能性について言及する。