2017 年 15 巻 1 号 p. 65-73
環境法の一つである化学物質管理促進法では、平常時における化学物質の環境への排出による周辺住民へのリスク低減のため、事業者の自主管理の促進と地域住民とのリスクコミュニケーションの重要性が示されている。東日本大震災後、同法を上位とする条例や事故対策マニュアルに漏えい事故等への対応が盛り込まれた。そこには、化学物質が係る災害における住民避難の判断、避難の指示、情報提供における地方自治体や事業者の役割が記載され、さらに平常時のリスクコミュニケーションの重要性が指摘されている。東日本大震災後は、地域住民において事業所の震災対策への関心が高まっていることから、リスクコミュニケーションにおいて、その事業所が使用する化学物質のリスク(爆発火災、健康被害等)を住民に伝達し、事故時の情報伝達、避難経路等の対応が事前に策定され、住民を交えた避難訓練等が行われるとすれば、実際の災害時に避難等が円滑に進み、被害の軽減に役立つ可能性がある。本論文では、化学物質管理制度における住民への事故情報提供の現状について紹介し、地域防災計画など他法令の規定も踏まえ、その課題について検討する。