2017 年 15 巻 2 号 p. 255-266
2016年熊本地震においては、2度にわたる震度7を記録するとともに、活発な余震活動のために、大量の避難者が発生した。特に、指定避難所以外の場所への避難者の把握は困難で大きな課題となった。本研究では、地震災害時における広域避難の実態を把握することを目的として、2016年熊本地震を対象に、人口統計を使って市町村を越える避難行動について考察を行った。具体的には、NTTドコモ社提供のモバイル空間統計を活用し、人口統計が持っている時間、場所、人数に加えて、居住地、年代、性別といった属性情報を加味した検討を行うことにより、広域避難の実態を明らかにすることを試みた。
本震、前震の前後を含めた2016年4月1日から30日の一ヶ月間を対象期間として分析を行った結果、熊本県内居住者の人口は前震直前の4月14日を基準として、本震翌日の17日78千人減少していること、益城町内の益城町居住者の人口は、4月14日を基準として、前震後の15日2,250人減少、本震後の16日に4,640人と大きく減少していることが示された。
本研究で示したのは、地震前後の人口変動の傾向である。実際に市町村外へ避難した延べ避難者数はさらに多いと考えられる。今まで把握されていなかった震災時の広域避難の実像に初めて迫る成果が得られた。