2022 年 20 巻 1 号 p. 197-207
東日本大震災では、大津波が到達するまでに猶予時間があったにもかかわらず、多数の住民が適切な避難行動をとることができずに命を落とした。自治体や放送局から避難の呼びかけが一斉に行われ、その情報を受信した人が多かったことをふまえると、危機の切迫を知らせるはずの情報が住民の避難を“後押し”するものにはなり得なかった可能性を示唆している。この課題を克服するため、東日本大震災以降、各放送局では「避難呼びかけ手法」(キャスターコメントやアナウンスメントの仕方、画面表示のデザインなど)に着目した改善策を施している。そのいくつかは、すでに実際に放送で使用されてもいるが、それをどのように住民が受け止めたかを実証的に調査した分析はほとんど行われていない。
本研究では、新たなキャスターコメントやアナウンスメントに対して、人々がどのような観点に重きを置いて評価するのかを確かめるため、東日本大震災時の津波避難経験者を対象とした定性的な調査(デプスインタビュー)を行った。その結果、地域の実情や個々人の経験によって多種多様な受け止め方があること、しかしそのなかでも適不適の評価に関しては、一定の傾向が見られることが分かった。こうした結果をふまえて、避難呼びかけのありかた自体を住民とオープンに議論することが、情報の感受性を高め、避難呼びかけの効果を高めることにつながる可能性を提起した。