抄録
理科において、火気や化学薬品を使用する観察、実験活動が含まれる授業は、刻一刻と変化し事故を誘発しかねない環境要因や生徒の心理状態など、授業者がコントロールできない内在的な危険と隣り合わせであり、通常の授業以上の高度な安全保持義務が要求される。我々は、予期せぬミスにより授業中に軽度な事故が起きた場合の措置・連絡等の事後対応についての特に応急手当と教員間の連携に焦点を当てた対応力の強化をねらいとした授業を実施した。授業は大学4年生を対象とし、90分の授業時間を設定した。授業前半では化学薬品の危険性、応急手当の方法、事故発生後の対応の流れについての講義をした。授業後半では、アクションカードを使用した事故対応ロールプレイ演習を行った。そして、アンケートにより応急手当の知識、授業で扱った内容の知識向上に関する自己評価、印象に残った点を調査し、授業内容を評価した。アンケートの結果、曖昧であった受講学生の応急手当の知識は授業後では大きく向上したことが示された。また、授業で扱った内容の知識向上に関する自己評価においては、本授業実践の内容には受講生にとって初見となる内容が含まれていたことが伺え、受講生にとって需要のある内容であった。印象に残った点の調査結果からは、前半の講義内容や後半のロールプレイ演習にまんべんなく関心を寄せていたことが伺え、本授業が理科授業中の事故発生を自分事として考えるきっかけになったことが推察された。これらの結果から、本授業は受講学生の事故対応力の強化と事故発生時の自身の役割意識の向上が期待できた。