2023 年 42 巻 p. 55-70
本稿は、アカロフのアイデンティティ経済学の社会学のアイデンティティ概念との違いを明らかにしたうえで、これの社会学における活用可能性を考察する。理論経済学者のアカロフは、社会学の規範の観点を経済学に導入することで経済学の発展を試みた。その際に着目したのがアイデンティティである。ただし、アカロフの見方は、一般的に社会学がアイデンティティを捉えるやり方とは異なる。それは、社会の側からのアイデンティティ観である。この見方および、そこで用いられるアイデンティティ効用という概念は、アカロフの考えとは別の意味においてではあるが、個人化が進む現代社会のアイデンティティ問題を考察するうえで興味深く、社会学的な活用可能性があることを明らかにする。