2006 年 62 巻 3 号 p. 224-232
本研究では,聴覚ディスプレイをPCのネイティブCPUで構築するためのソフトウェアエンジンを構築し,応用例として視覚障害者向けの空間認識能訓練コンテンツの開発を行った。開発したエンジンは,頭部伝達関数の音源データヘのたたみこみを行うFIRフィルタ,頭部運動による頭部伝達関数の補間,ドップラ効果や一次反射,残響などの信号処理等を行っている。本エンジンは既存のエンジンに比べて遅延時間が短く,特に移動音像の定位に優れている。また,ライブラリ形式で作成したため,アプリケーションから呼び出すことができ,高度な信号処理を含むプログラムの開発が極めて容易になった。次に,このエンジンを用いて視覚障害者向けのアプリケーションソフトを開発した。開発したのは,局所的空間認識能訓練コンテンツ,高速移動音認識能訓練コンテンツ,認知地図形成訓練コンテンツの3つである。これらのコンテンツは,動的に変化する3次元仮想音響空間内で,楽しみながら空間認知や障害物知覚の訓練ができる画期的なものである。