手話学研究
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原著
日本手話における{指差し/男}の意味論的分析
大杉 豊
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1999 年 15 巻 1-2 号 p. 1-14

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抄録
名詞の指示対象が名詞の前後に現れる{指差し}に寄って何らかの制限を受ける傾向は世界中の手話言語に共通して見られる。しかし、空間のある位置ではなく手話単語の{男}を指差す{指差し/男}は日本手話に特有の表現である。{男}と{指差し/男}のそれぞれを意味論的に、統語論的に分析することで引き算的に{指差し}の言語的な性質が解明される可能性がある。本論は明示的な意味論的分析である。 単独で現われる{{男}はその生起する環境の意味的、統語的、語用的な要因に左右されて、照応的解釈、総称的解釈、存在的解釈のいずれかをとるが、{指差し/男}は常に照応的解釈しか取れない。また、同じ照応的解釈を受ける場合でも、{男}と{指差し/男}の指示対象の限定範囲に差が見られる。{男}の指示対象は先行文脈によって支持される男の人の集合内に限定されるが、{指差し/男}の指示対象は聞き手によって固定可能な、ただ一つの要素しか持たない男の人の集合に限定されるという違いがある。つまり、{男}が特定性、定性、および人数の面で、中立であるのに対して、{指差し/男}は特定性と定性を持ち、人数も単数に限られている。 この一般化より導かれる本論の主張点は、Barwise and Cooper(1981)の論理学的な枠組みにおいて、{男}は限量表現でなく単なる集合表現であるが、{指差し/男}は限量表現であり、その{指差し}の部分は限定詞に相当するということである。
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© 1999 日本手話学会
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