2023 年 32 巻 2 号 p. 1-12
本稿では、「聾者」や「日本手話」の定義化をめぐる言説を、聾固有の言語・文化の構成を踏まえて整理し、これまで広く用いられてきた手話の分類(言語連続体)について社会言語学的な観点から再検討を行うこととした。その結果、①手話言語集団が「聴覚障害」によって生じ、その影響を受けて継承されるため、必然的に多様性が生み出される、②「日本手話」なる用語が「(音声)日本語」ではなく、日本語コードを手指で表した「手話」(日本語対応手話、手指日本語)を対抗レトリックとして提起されたために、言語連続体の右極が「日本語対応手話」として位置づけられた、③「手話は2つ」論も「手話は1つ」論も、いずれも政治的背景の元に主張がなされている、といったことが示唆された。これらの結果を踏まえ、社会言語学的に手話の言語使用状況を説明していくためには、人工的な言語や手話学習者の聴者を対象から除外し、聴覚障害ゆえに手話を主要コミュニケーション手段とする話者の範囲で手話の分類の検討をするべきであることを提案した。