音楽芸術マネジメント
Online ISSN : 2758-1098
無形の文化財としての芸能の保存・継承に係る保護制度の運用に関する一考察
角 美弥子
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2009 年 1 巻 p. 107-114

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抄録
平成13(2001)年のユネスコによる第1回「人類の口承及び無形遺産に関する傑作の宣言」以来、平成18(2006)年4月には「無形文化遺産の保護に関する条約」が発効するなど、世界的にも無形の文化遺産に対する重要性が改めて見直されている。日本は世界に先駆けて文化財保護法を制定した国でもあり、その整備に関して最も整っているといっても過言ではない。 現在、日本には、無形の文化財に関する保護制度として、重要無形文化財・重要無形民俗文化財の指定制度、記録作成等の措置を講ずべき無形文化財・無形の民俗文化財の選択制度がある。しかしながら、無形の文化財に関しては、"無形"という特質から価値基準を定めるのは容易ではなく、また"衰亡のおそれ"のある無形の文化財に対しては特別な処置が講じられているわけではない。特に、無形の文化財である「芸能」が消滅してしまうことは、我々の歴史を形づくる1つの「文化」の「財」を失うことになる。つまり、現在に至るまでの我々の歴史の一部を認識することができなくなり、ひいては我々自身を理解するための重要な要素の1つを失うことにつながる。一度途絶えた「芸能」を復活させることには、非常な困難が伴う。本稿は、第1に、そのような危機的状況を最低限に抑えるため、主として「記録作成等の措置を講ずべき無形文化財・無形の民俗文化財」の選択制度に着目し、現行法制度の下でどのような運用方策が可能かを探る。 また、「芸能」は、それ自体で存在するものではなく、周辺の有形・無形の文化財によって支えられている。つまり、無形の文化財は、相互に、また時間的・空間的に連鎖しているものであり、一端が欠ければその存在自体が危うくなるという認識が必要である。本稿は、第2に、今後、周辺の文化財との相互の関連を含む包括的な保護の必要があることに言及する。
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© 2009 本論文著者
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