2017 年 20 巻 2 号 p. 160-169
【問題と目的】「感情の言語化」は攻撃的な行動の抑制につながっている。そのような力を育てる方法として注目されている教育方法のひとつにフィンランド・メソッドがある。そこで本研究では,フィンランド・メソッドを取り入れた表現力トレーニングができるプログラムの開発・実践について報告し,それが生徒の自己表現にどのような効果を与えたのかを考察する。
【方法】中学3年生の学級に対して全5回の表現力トレーニングのプログラムを実施し,それが生徒の自己表現にどのような効果をもたらすのかを検討した。自己表現の変化はPFスタディのスコアの変化と,ワークシートの記述から検討した。効果の検討に際し,まず担任教師へのヒアリングをもとに自己表現に関する力で学級を3層に分け,各層の特徴を最も表わしている3名の生徒を選んだ。
【結果】トレーニングの結果,3名ともPFスタディの「自我防衛」と「要求固執」の値が同世代の平均値に近づくという変化が見られた。またワークシートの記述の変化では,上位層,下位層の生徒の変化が少なかった一方で,中間層の生徒の変化が顕著に表れ,話し方の型を教えた第3回を境に記述量が増加した。
【考察】表現力トレーニングの結果,3つの層に共通した変化をもたらすことはできなかった。しかし,自己表現の型を教え,自分で考え表現する課題に取り組むことで,各層の欲求不満場面における反応のバランスが変化したことが示唆された。また,特に中間層の生徒は,トラブルにすぐに反応するのではなく,問題解決に意識が向くようになった。トレーニングの中で自分の考えを表現するやり方を学び実践することで,余裕をもってトラブルに対応することができるようになったと考えられる。