抄録
畜産の盛んな山間農業地域において、堆厩肥となりうる資源の生産量および利用状況、農地における窒素供給量および作物による窒素吸収量を明らかにし、これらを地域における窒素フローとして考察し、資源の有効利用および環境保全の観点から評価を行った。窒素フローは農林水産統計などの各種統計資料、各種調査データおよび関連する研究成果をもとに見積もった。1985年の茨城県里美村では、林野が地域の90%を占め、農地面積は8%、942haであった。農地の大半は水田と放牧地で占められていた。農地面積当たりの牛の飼養頭数は1.62頭ha-1であった。農地に投入して肥料として利用可能な有機物は、家畜糞尿が農地面積当り139kg N ha-1 yr-1生産されており、91%が厩肥として利用されていた。ただし、里美村の農地に62%が施用され、29%は他の地域に搬出され、利用されていた。わらや茎葉などの農作物副産物は95kg N ha-1 yr-1生産されており、このうちの97%が農地に直接投入されていた。農地には、堆厩肥施用、鋤込みなどにより175kg N ha-1 yr-1が供給されており、化学肥料の投入量93kg N ha-1 yr-1などと合わせると、農地への総窒素供給量は合計336kg N ha-1 yr-1と見積もられた。一方、農地からの窒素流出量は、作物吸収量185kg N ha-1 yr-1などの他、合計227kg N ha-1 yr-1と見積もられた。それらの結果、農地に残存する窒素は109kg N ha-1 yr-1と見積もられた。この窒素が農地から流出すると、環境にかなりの負荷を与えると予測された。家畜糞尿を厩肥として有効に利用し、かつ、環境を保全するためには、地域間の物質循環をより推進する必要があると示唆され、地域外との窒素の出入りを検討したところ、里美村においては、周辺市町村への搬出が可能なことが明らかになった。