抄録
本稿では,青果物産地の計画主体が自らの手で市場動向を分析し販売戦略の策定に活かせるような簡易で有用な分析指標と分析手順を提案している.販売戦略のあり方は様々な社会経済の変化に左右されるが,最終的にそれらは,需要,商品価値競争力,並びにコスト競争力の変化として産地の経済目標を左右する.このため,この3つの動きを把握することは,産地にとって,市場競争に影響する社会経済的な変化を見落とさず,遅滞のない対応策を打つために有効な手段である.しかし,個々の青果物品目の市場動向を分析するために利用できるデータは,卸売市場の取引データ程度であり,行政や研究者からの情報提供も限られている.本稿では,このような現状をふまえて,卸売市場における取引データだけを用いて青果物産地自らが市場動向を分析できるような分析指標の提案を行った.すなわち,需要の変化は需要曲線のシフトとして,商品価値競争力の変化は,吉野による関係曲線のシフトとして(吉野 1997),さらにコスト競争力の変化は供給反応のシフトの産地間の差として把握し,それぞれの変化の有無は統計学的有意性で判定することにした.ただし,前二者は,曲線推定に失敗する場合があるので,価格と数量の変化からその動きを把握するための補助的判別指標を加え,分析システムの利用可能性を高めた.また,コスト競争力の変化はデータの制約により特定の市場における補助的判別に限定した.さらに,この分析方法の簡易性と有用性を示すために普及度の高い表計算ソフトMicrosoft社Excelによる分析システム作成事例を紹介し,若干の分析例を紹介した.