抄録
コミュニティフォレスト管理モデル(以下、CFM)はベトナムにおいて、公式に認められた森林資源管理モデルとして2000 年代初頭に登場した。その結果、ベトナム国内で法的な枠組みと共に多様なモデルが導入され、政策や方法論の開発及び改善が行われている。しかし、具体的な政策的指標の評価の多くは国家レベルで十分調査されていない。それらの中でも、コミュニティが享受する木材の潜在的利益を推定することは最優先事項の一つである。そこで、本研究は、地元住民の参加にかかる費用と木材純利益の適切なバランスを明らかにすることを目的とした。ベトナム中部のCFM における木材純利益に関連する問題を調査し、システムダイナミクスを用いて、異なる時間的スケールで分析を行った。その結果、コミュニティに対する現在と将来に期待される木材純利益に著しく影響を及ぼす7つの主要因を明らかにした。7つの主要因のうち、最も影響を及ぼす要因は木材価格であり、次に利益率、木材容積、そして立木損傷率である。最も影響が少ない要因は収穫条件であり、次に森林管理活動、そして収穫率である。異なるシナリオで実行したシミュレーションでは、地元のコミュニティは、現状の資源量が乏しい森林では収穫可能な状態になるまで25 年間、実際よりも好ましい資源状況の森林では15 年間、現状より資源状況が悪い森林では50 年以上待たなければならないことを明らかにした。資源備蓄が乏しい森林と中程度の森林が割り当てられた場合は、上記3つ全ての状況で、CFMを5年間実行すると合計純利益は正の値を示した。現実の状況またはそれよりも好ましい状況では、50 年後には木材純利益はそれぞれ、約607,068米ドル、約660,351 米ドルという大きな値を示した。一方で、実際よりも好ましくない状況では木材純利益は約52,666 米ドルしか示さなかった。現実には、地元コミュニティに利益を還元し、その利益を最大化するには、収穫条件や利益率に加え、配分される森林条件が大きく関与しているので、関連した政策における調整が必要である。同時に、コミュニティは森林保全と育成により大きな努力を注がなければならない。そうでなければ、割り当てられた森林から、ごくわずかな利益しか得られない。さらに、資源の質と量が乏しい森林が配分される場合は、そのようなコミュニティを支えるために、技術的支援や金銭的支援だけでなく、関連する様々な行政的援助が必要不可欠である。