システム農学
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技術論文
ベトナム国アンジャン省における節水灌漑技術の普及実態およびAWD節水灌漑技術普及のための課題の解析
宮下 昌子村松 康彦川島 知之
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2016 年 32 巻 2 号 p. 71-80

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抄録

乾湿繰返し(AWD)節水灌漑管理は、灌漑水使用量の削減に加え温室効果ガスの放出量削減に副次効果を有する技術であり、将来、広域的な普及が望まれる。ベトナム国アンジャン省(AG省)では、本技術が急速に普及したとされ、その普及要因および障害要因を特定することは、将来の水不足、地球温暖化緩和策を広域的に普及する上で貴重な情報となる。そこで、AG省の農家や政府職員を対象に、技術普及の背景、水管理方法などについて調査を実施した。その結果、簡易な水位測定パイプを用いて水位を確認するなど客観的判断に基づいた水位管理は定着していないことが確認された。一方で農家は経験に基づき落水湛水を行うなど、現場の営農実態に応じた技術の応用が確認された(農家によるAWD節水灌漑技術)。農家によるAWD節水灌漑技術導入の動機付けは、ポンプの燃料費用削減と考えられたが、現在のポンプ所有形態および賃借条件では、その便益を享受できるのはポンプ所有者のみと判断され、適切な賃借条件の設定も農家によるAWD節水灌漑技術普及の重要な要件と考察された。各圃場は立地条件が多様であり、画一的な技術普及は容易ではなく、各農家が立地条件の多様性という課題を克服してきたことも確認された。優良種子の利用と同時に技術パッケージとして普及することに加え、優良農家の起用、アクセス容易なモデル水田の設置、近隣農家のグループ化というアプローチが重要と考えられた。将来、広域的な温室効果ガスの放出量削減のためには、農家が簡易な水位測定パイプを用いて水位確認の実施を条件とし、その実施状況を第三者機関がモニタリングし妥当である場合に、新規農業技術の導入や低利融資を行うといった事業に二国間クレジット制度を活用することが有用と考えられる。また、ポンプの賃貸条件変更に係る社会的受容可能性の評価、AG省における普及体制の他地域への適用可能性の評価が必要となる。

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