システム農学
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研究論文
中国農村での垂直的組織化と農地への投資行動
-湖南省を事例として-
李 妍蓉
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2016 年 32 巻 4 号 p. 117-131

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抄録

中国政府は農地の担い手不足という構造問題を解決するため、農民専業合作社を通じて農地流動化を活発化させるという発展戦略を推し進めてきた。本稿は農民専業合作社と農地流動化の関係を垂直的組織化という枠組みでまとめ、農地への投資行動という視点から分析したものである。湖南省において収集した事例から垂直的組織化は、(1)完全統合、(2)完全な合作統合、(3)部分的合作統合、(4)契約生産に整理できることが分かった。その上で本稿では特に完全な合作統合と部分的合作統合による農地への投資行動の違いについて分析を試みた。本稿では第1 に、農産物調達制度として、これらの制度が選択された理由を考察した。具体的には農業関連企業による買付調達を主目的とする場合には完全な合作統合が、農業関連企業の直営農場からの調達を主目的とする場合には部分的合作統合が選択されることを明らかにした。第2に、そのような調達制度の違いが、農地への投資の分担の違いをもたらす要因を理論的に示した。完全な合作統合では農業関連企業と農家の両者による分担、部分的合作統合の場合は経済合理的な理由から農家のみによる負担となることを説明した。第3に、これら類型の違いにより、農地への適正投資がもたらされる場合と、過小投資になる場合があることを理論的に示した。適正投資をもたらすのは完全統合だけでなく、完全な合作統合も適正投資を引出すことになることを明らかにしたことは本稿の特色である。本稿の結果からの含意は中国の農村発展のためには農地を適正に利用できる完全な合作統合を戦略とすべきであると言えるだろう。一方で、過少投資となる部分的合作統合をとらざるをえない形態があることも事実である。今後、合作社が成功していくにつれて、完全合作統合への転換を図るというのも一案かもしれないが、これは中国農村発展での鍵と言えるだろう。

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