抄録
肺は放射線感受性が非常に高く, 肺癌などに対する放射線治療において放射線肺臓炎は避けがたい有害事象の一つであり, 早期に肺障害を捉えてその対策を考慮する必要がある. そこで今回, 活性アミンの一つであるN-isopropyl-P-{123I}-iodoamphetamine (123I-IMP) が初回循環で肺に高率に集積する性質を利用し, 123I-IMP 肺シンチグラフィが放射線肺臓炎の先行指標となり得るか否か, 実験動物を用いて検討した. Wistar系7週齢雌ラット (一群6匹) 右肺に4MV X-rayにて1回10, 20, 30, 40Gy照射を行い, 照射7, 14, 21日後に123I-IMP肺シンチグラフィを施行した. 123I-IMP約7. 4MBqを急速静注し, 直後より1 frame/min, 60分間ダイナミック収集を行った. データ解析は片肺別々にROIを設定して時間放射能曲線を求め, 直後から5分までをfast phase, 10分以降をslow phaseとして, C (t) =A1e-k1t+A2e-k2tに近似し, 各phaseの半減時間を算出した. また同時期の肺病理組織標本を作成し, 病理学的所見と対比した. 照射肺fast phaseの半減時間は正常群と比べて照射14日後より有意な延長を認めた (p<0.01, p<0.02). 線量別に比較すると, 照射7日後では10Gyと比べて20, 30Gy照射群で半減時間の有意な延長 (p<0.02), 40Gy照射群で延長傾向を認めたが, 200Gy以上の各線量別での差はみられなかった. 照射14, 21日後では10-40Gy各線量別で有意差を認めなかった. 照射肺slow phaseの半減時間は正常群との比較で有意差を認めず, また経時的, 線量別にも有意差は認めなかったが, 40Gy照射群では経時的に延長傾向にあった. 病理学的には7日後では10, 20, 30Gy照射群では正常と殆ど変化ないが, 局所的な肺胞隔壁へのマクロファージなどの細胞浸潤を認め, 40Gy照射群では細胞浸潤が軽度増加傾向にあった. 照射14, 21日後では肺胞隔壁への細胞浸潤は目立つも局所的な変化にとどまり, 線量別にも10-40Gy間でほとんど差がみられなかった. しかし6週後には著明な炎症細胞浸潤や肺胞隔壁の肥厚, 肺胞内浮腫などが10, 20, 30Gy照射群間で線量依存的と思われる所見が観察された. しかし30, 40Gy照射群では病理学的に差がみられず, 30Gy以上では反応がプラトーになったと考えられた.
123I-IMP肺シンチグラフィにおいてfast phaseの半減時間を解析することにより, 照射14日後から肺障害を捉え得た. この時期では病理学的変化は軽微であり, 123I-IMP肺シンチグラフィは放射線肺臓炎の先行指標になり得る可能性が示唆された.