抄録
口腔癌治療における手術療法は, 昨今の再建手術の進歩に伴い, 急速に発展してきた. とくに進行症例や再発症例に対する根治手術において, 安全で十分な切除を可能とし, そのうえ術後の形態や機能の回復が得られている. そこで, われわれが, 1983年から1994年までの12年間に微小血管吻合による即時再建手術を行った進行症例および再発症例64例について検討を行った. その内訳は, T3症例: 19例, T4症例25例, 再発症例20例であり, 用いられた遊離弁は, 前腕皮弁, 空腸, 腹直筋皮弁, 肩甲皮弁であった. 移植した遊離弁の生着率は95.3%である. 原発巣制御率は85.9%であり, 5年累積生存率はT3症例: 61.1%, T4症例: 60.1%, 再発症例: 62.9%と比較的良好な結果を得た. また舌癌および口腔底癌T4症例12例に対して, 術後の機能障害の軽減を目的として, 術前組織内照射と手術併用の治療を試み, この治療が術後のquality of lifeの向上に極めて有効な方法であることを認めた. 下顎骨の再建は, 今日でも多くの問題が残されている. 術前に放射線治療が行われる事が多い口腔癌症例ではliving boneを移植できる血管柄付骨移植が多用され有効な方法とされている. しかし, 形態の修復のみならず咀嚼機能の再建が重要になるため最近では, 再建した下顎骨にいかに義歯を装着して咀嚼機能の回復を計るか手技的な工夫が成されている. この様な昨今の口腔癌治療における手術療法の現状と展望について述べた.