抄録
本稿ではこれまで明らかにされてこなかった国際創発新規事業開発の失敗事例の詳細を提示し、この新規事業の困難点や失敗要因等について、マーケティング、新規事業開発論および国際経営論の視点を考慮して総合的に分析と考察を行った。事例はキヤノンの英国発のスピーカーの新規事業である。その結果、この新規事業の誘因として、貿易摩擦の問題と現地でのチャンピオン活動が指摘された。一方、失敗要因として、製品レベルの問題として製品のポジショニングが顧客ニーズに一致していなかったことと製品コストが高くなる点が指摘された。また、好評であった業務用製品の市場投入の時期の遅さとそれへの集中のなさが指摘された。さらに、各国販売会社の機能不全、キヤノン・ブランド使用による国際販売チャネル制限、現地以外にチャンピオンが存在しなかったこと、および海外での知的財産管理の弱さ、が指摘された。