抄録
近年、新しい知識を持ったベンチャー企業が次々と登場する土壌、いわゆるイノベーション・エコシステムの整備が必要だという議論が活発に行われており、大企業とベンチャー企業の関係強化が求められている。本稿では、我が国の医薬品産業で創薬ベンチャー支援の先鞭をつけてきた代表的な企業の1社であるバイエル薬品オープンイノベーションセンターの事例を取り上げる。同社は、特許による知的財産保護が強力であるはずの医薬品産業において、オープンイノベーションの成果となる知的財産権の共同保有(ないしは導出)を契約の必須条件にしないと宣言したうえで、自社資源(資金、設備、ノウハウ)をパートナーに開放するという極めて珍しい形式のオープンイノベーションを実践している。同社の一見すると利他的にも見える創薬ベンチャー支援と協働が、自社の主導するオープンイノベーションへのニッチプレイヤーの動員とガバナンスを可能にするメカニズムを明らかにする。