抄録
本論文では、企業家のアイデンティティ・ワークが新製品開発ひいては戦略実践に結びつくプロセスを経験的に示した。そのために、YAMAKIN株式会社の山添正稔による金属焼付用陶材製品のゼオセライト開発の事例研究を用いた。山添は、同社の組織アイデンティティに影響を受けつつ「理想的な陶材を自ら開発する」というアイデンティティをリレーショナルに構築した。そして、アイデンティティを源泉として、金属焼付用陶材の開発で熱膨張の安定、無色透明性の向上、天然歯と同様のオパール性と蛍光特性の実現というブレークスルーを達成した。山添の達成したブレークスルーが同社のさまざまな複合材料の新製品開発に波及した結果、同社は歯科材料の総合メーカーとして国内市場で競争優位の地位を強化した。本論文では、事例研究において過程追跡を実施し、出来事年代記と出来事構造を抽出することで、アイデンティティ・ワークと戦略実践の因果メカニズムを示した。