抄録
本研究は、写真フィルム市場の急縮小という破壊的ショックに直面した富士フイルムが、取締役(トップマネジメントチーム)のガバナンス体制を段階的かつ動態的に再設計し、ターンアラウンドと新規事業創出を同時に実現したプロセスを、例外的成功企業の長期事例分析によって解明するものである。特に「集権化」と「機能幅の拡大(多面化)」という一見トレードオフに見えるガバナンス要素が、(1)ハイブリッドリーダーシップ、(2)モザイク所管、(3)スラック活用サイクルという三要素からなる橋渡しメカニズムを介して統合的・動的に両立され、危機対応から持続的な競争優位実現に至る企業変革の全過程を支えた点を実証的に示した。理論的には、アッパーエシュロン理論やターンアラウンド研究に対し、集権化と多様化の統合的ガバナンス設計・運用が企業変革を成功させる重要要素であることを提示し、実務的にも大企業の組織変革に向けた新たな設計指針を示す。