抄録
本研究は、日本のゲイ男性起業家に焦点を当て、セクシュアル・アイデンティティの主観的認識と起業実践との関連を質的に分析した。スモール・ビジネスを営む7 名のゲイ男性を対象に半構造化インタビューを実施し、再帰的テーマティック分析を通じて、アイデンティティ・ワークの多様な在り方を検討した。分析の結果、ゲイ・アイデンティティに対する認識の違いが、ゲイ・コミュニティとの関わり方に影響を及ぼしていた。さらに、ゲイ・コミュニティとの関与の深さが、ビジネスにおけるセクシュアリティの活用度合を規定していた。本研究では、こうした関係性の違いに着目する中で、ゲイ起業家の在り方として「ゲイ・ビジネス集中型」「異性愛社会適応型」「社会変革志向型」という三つの特徴的な傾向が観察された。これらの傾向は、起業家が社会的規範とアイデンティティのあいだでいかに調整しているかというアイデンティティ・ワークの動態を理解する上で有効な視点を提供する。