抄録
この研究では,医療的ケアを必要とする子どもが人工透析治療を受けないという選択をした事例を取り上げ,TEM図と TLMGを用いて両親や医療者の葛藤と相互理解に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とする。分析の結果,両親には,子どもの生命を守る責務と子どもの意思を尊重し,その生命を短縮させる選択を共にする葛藤が示された。
一方,医療者は患者や家族の意思を受け入れるか否かで葛藤し,職業倫理や法的不確実さから抵抗感を抱いていた。また,前例のない事態への対応に迷い混乱した。相互理解に対する影響要因として,子どものゆるぎない意志や積極的関与が葛藤の緩和や信頼関係の強化,適切な治療計画の立案に寄与していた。本事例では,親が子どもの成長を信じ,その過程を忍耐強く待つ子育てを実践していた。この子育てのアプローチは,子どもが自分にとって重要な価値観に基づいて判断し,行動する能力を育てた。子どもが自身の生命に真摯に向き合い,懸命に生きる努力をし続ける姿に両親は信頼と尊敬の念を寄せた。これにより,彼らは子どもの選択を尊重することと,子どもを死から守りたいという強い欲求との間でバランスを見出すことが可能になった。さらに,主治医の幅広い臨床経験と情熱的姿勢は,子どもの人生観に対する彼の共感や理解の源となっていた。家族内葛藤の解決には,限られた時間の過ごし方,生のあり方,そして家族の支援スタンスに焦点を当てることが有益であった。