2011 年 2011 巻 21 号 p. 159-168
本稿の目的は,監査法人の規模が監査報酬に対してどのような影響を与えているのかを明らかにすることである。標準監査報酬規定撤廃後,わが国では監査報酬が監査人とクライアント間の交渉で決定されるようになった。わが国では中小規模の監査法人の方が大規模監査法人よりも報酬が低く設定されているとする主張もある。監査法人の規模と監査報酬の決定との関係についての推測は一貫してない。本稿ではわが国の監査報酬の実態を検証した。検証方法として先行諸研究の知見を活かし設定した監査報酬の理論値を示すモデルと実際値との差で表現される期待外報酬を用いた。検証の結果,大規模監査法人の監査を受けている企業の監査報酬から正の期待外報酬を識別できた。追加的な検証からも,わが国では監査法人の規模が監査報酬に影響していることを示す証拠が得られた。今後の課題は期待外報酬を生み出す状況を特定することである。