2012 年 2012 巻 22 号 p. 84-92
国際財務報告基準(IFRS)の影響下で,従来は財務諸表外情報であったリスク情報等の注記開示が進展している。金融商品のリスク情報は財務数値の変動性と直結し得るため,他のリスク情報よりも財務諸表本体との関連性が相対的に強い補足情報と位置付けられるが,表示の網羅性ないし完全性等を財務諸表本体情報と同じように立証命題に設定することが難しく,監査証拠収集にも一定の限界がある。そこでの開示基準としてはマネジメント・アプローチが採用されるとともに,注記情報に対する監査の立証命題としては,開示基準に準拠する形で補足された内部管理情報の関連性,説明性,明瞭性等の検証が主眼となる。任意の方法による計測を許容し計測の限界を開示しつつ,こうした開示を前提に監査人が関与していく方策は,監査可能性を高めるための実務的な便法であるが,企業間におけるリスク量の比較可能性を減殺してしまいかねない点には留意が必要であろう。