財務諸表監査において,監査人には職業的懐疑心の保持および発揮が強く求められてきている。
そのような状況にあって,どのような監査行動が職業的懐疑心を発揮した行動であるのかを監査人が理解しておくことは重要である。本稿では,監査における懐疑主義を監査人の懐疑的行動の規範として位置づけ,その内容を検討している。まず,監査人の懐疑心と監査における懐疑主義の違いおよび両者の関係を整理している。次に,監査における懐疑主義を検討するにあたって,哲学および科学哲学における懐疑主義の内容を検討している。そして,その検討結果を踏まえて,監査における懐疑主義について検討を試みている。結論として,監査における懐疑主義は,監査人に対して,監査における自らの過去および現在の認識,さらにはその認識の根拠に至るまで,常に問い直すことを要求する行動方針であると捉えている。