2020 年 2020 巻 30 号 p. 37-45
日本において,法が監査に介入するのは,まず,監査に対する社会的信頼を確保すること,監査が社会に受容されることをねらって,監査の環境を整備する局面である。また,市場原理によって是正が期待しにくい,事後的救済では不十分という部分について介入し,最低限の公益を保護する一方で日本公認会計士協会による自主規制に期待するという側面もある。他方,監査の基準の具体的内容を法で定めることはしていない。これは,監査の基準は専門性の高さ・発展の速度に照らすと,指揮命令的(command-and-control)規制や立法的(legislative)規制に向かないからである。しかも,監査人の実質的判断こそが監査の社会的有用性のために不可欠であるとすると,ルール・ベースの規制あるいは裁判所によるエンフォースメントには限界がある。