2010 年 3 巻 p. 222-225
本稿では,年金をめぐる個人の認知バイアスを行動経済学の観点から整理する.年金の制度設計は,個人(家計)の長期的な資産形成·消費計画と密接にかかわっている.したがって,今後の年金改革にあたっては,個人の老後の資金計画についての意思決定が含むバイアスを把握することが欠かせない.ここでは特に「終身年金パズル」にまつわるBrown et al. (2008) のアンケート調査に注目した.行動経済学·実験経済学における関連研究にもとづいたそのアンケート実験からは,損失回避や心理会計といったバイアスが終身年金パズルの原因となりうることがわかった.本稿でも同様のアンケートを日本人対象に行い,認知バイアスの存在を確認した.