抄録
行動経済学は,現状ではまだ伝統的経済学のパレート効率性にあたる統一的に経済政策を評価する基準を持っていない.パレート効率性は伝統的経済学のように選好が安定的で外生的であると仮定するなら,優れた基準であるが,行動経済学ではプロスペクト理論の参照点の変化のように,選好は不安定で内生的なものと考えることが多い.政策評価のためには,絶対的に不変で外生的なものが価値観の基礎として望ましい.「無条件の愛」は,「自分の子供だから愛する」,「自分と同じ宗教に属するから愛する」,「若くて美しいから愛する」のような条件つきの愛と異なり,不変で外生的である.少なくともほとんどの人間は無条件に愛することができていないとすると,「無条件に愛することを学習する」ことを助ける政策が,「良い政策」と評価できる.例えば,あまりに貧しいと,学習する機会がないので,助けるのが良い政策である.高い効用レベルから快感を得るようにすることは,目標ではなく,学習のための補助として用いる手段のひとつと考えることができる.