抄録
1999年4月より2002年3月までの3年間に自治医科大学附属大宮医療センター心臓血管外科にて胸部大動脈瘤に対して人工血管置換術を行い,その術後に反回神経麻痺を生じた症例(手術性麻痺症例)14例について検討した。その結果,胸部大動脈瘤手術症例の9%に術後,反回神経麻痺が生じた。経過を追えた手術性麻痺11例のうち4例で,声帯の可動性が回復した。また,声帯の可動性が回復しなかった症例でも,リハビリテーションにより症状が改善した症例が多数見られた。瘤の大きさや位置は麻痺の予後にはさほど関係せず,置換する人工血管の両端の位置が麻痺の予後に深い関係を持つと考えられた。反回神経麻痺は患者のQOLを損なうのみでなく,長期的には誤嚥性肺炎などにより,生存率の低下をもたらすと考えられる。従って,反回神経麻痺症例に対しては,積極的にリハビリテーションの指導と必要に応じて外科的治療を考慮すべきであると考えられた。