抄録
小児にとって, 妊娠中の母親の喫煙および家庭内での受動喫煙による健康被害は深刻な問題である。
妊娠中の母親の喫煙・受動喫煙, 出生後の乳幼児の受動喫煙は, いずれも乳幼児突然死症候群の危険因子である。日常的に受動喫煙にさらされている小児は, 気管や気管支粘膜の繊毛運動が障害されて気道の炎症を生じやすく, 気道過敏性も亢進するため, 気管支喘息, 上下気道炎などの呼吸器疾患に罹患する危険性が高くなる。受動喫煙によって小児の呼吸機能が低下するとの報告が多数あり, 全身麻酔時のトラブル発生率も高くなる。受動喫煙は小児の耳管粘膜の腫脹や繊毛運動の低下を起こし, 中耳炎の罹患率を増大させる。小児期の受動喫煙は, 後年肺癌発症の原因となる。
近年わが国では未成年者の喫煙率が上昇している。喫煙の害は, 呼吸器疾患も含め成人でも小児でも基本的に同質であるが, 喫煙によって身体が受けるダメージは, 成人に比べて小児では著しく大きい。常習的に喫煙している小児に対しては禁煙治療が必要である。