2006 年 57 巻 4 号 p. 393-397
声帯固定があったにもかかわらず,嗄声の自覚が全くなかった甲状腺癌症例を経験した。症例は66歳の女性,上部消化管内視鏡検査の際に,偶然梨状窩の膨隆所見を指摘された。CTで甲状腺に石灰化を伴う腫瘤を認め,腫瘤は甲状軟骨翼の後方から喉頭内に侵入しているのが確認された。穿刺細胞診で甲状腺癌と診断された。
喉頭に浸潤する程度の甲状腺癌でありながら嗄声をきたさなかった要因として,腫瘤の進展形式が披裂軟骨を内転させる方向であったこと,反回神経麻痺をきたした時点で声帯位置は正中であったこと,の二点が考えられる。さらに腫瘤の喉頭内への進展が続くにつれ披裂軟骨の内転はより強固になり,声帯の緊張も保たれ,良好な音声が保たれていたと予想した。