頸部食道癌手術における頸部手術視野では完全な上縦隔郭清は困難である。そのために徹底した上縦隔リンパ節郭清を必要とする場合は胸骨縦切開の付加や右開胸食道切除を選択することになる。しかし転移診断は現在なお困難で,より低侵襲でまた106recLリンパ節の確実な郭清を行える手段があれば望ましい。ここでは気縦隔下に106recLリンパ節郭清を行った症例について報告する。 (症例) 57歳,男性で術前診断は食道癌 (Ce type 4 cT3 cN0 cM0 cStage II) であった。PETでは陰性なるもCTでは106recLに8 mm大のリンパ節を認め,組織学的判定が必要と判断,気縦隔下の左上縦隔郭清を行う方針とした。左頸部やや上方に4 cmの襟状切開を置き直視下に開始する。左反回神経の露出後にwound retractor XSを挿入後に単孔デバイスを装着し気縦隔操作に移行,左鎖骨下動脈,胸管に沿って食道左側背側を剥離し,気管壁に沿って左反回神経背側を剥離,気管膜様部から食道を遊離,最後に左反回神経の腹側の106recLリンパ節を郭清した。尾側では左反回神経が大動脈弓を反回する部位まで確認できた。また左反回神経からの気管への分枝も確認しえた。気縦隔下の上縦隔郭清は経胸腔操作を要せず,反回神経の気管枝温存の可能性も備えた有用なアプローチ法と思われた。