わが国における高齢化は今後も比類なき増加が予想され,気管食道科医にも高齢者医療に対するさらなる理解が必要である。そこで高齢者専門急性期病院における過去10年間の気管切開術について検討を行った。
症例は全117例,平均年齢は78.0歳であった。中気管切開術を基本術式として用いた。高齢者特有のリスクとして,喉頭低位や,頸部伸展困難,血管走行異常が多くみられた。術後,合併症発現率は16.2%であり,手術関連死はみられなかった。
当科では,第一・第二気管輪以下での気管切開が困難な症例において,輪状軟骨鉗除による気管孔造設術 (輪状軟骨切開術) を行った。本報告での6例を含む過去30例の輪状軟骨切開術の報告における平均年齢は77.3歳で,合併症は1例で肉芽形成を認めるのみであった。自験例2例を含む4例で気管切開孔閉鎖に至った。輪状軟骨切開術に至った理由としては,喉頭低位が約半数を占め,高齢者特有のリスクとして認識する必要があると言える。
今後高齢化に伴い,気管切開の適応症例においてもこれらの術前リスク因子がある症例の増加が予想される。個々の症例に適する術式の選択が重要である。