日本補完代替医療学会誌
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総説
アガリクス・ブラゼイ・ムリル製剤における複合的がん予防効能及び安全性研究の現状
I. P. LEE
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2009 年 6 巻 2 号 p. 75-87

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抄録

アガリクス・ブラゼイ・ムリル(ABM:以下略してアガリクス茸)は日本では“ヒメマツタケ/カワリハラタケ”として幅広く知られており,特に中高年層において非常に人気の高いサプリメントである.アガリクス茸は伝統療法として心血管疾患や糖尿病または癌などの生活習慣病に対して用いられてきた経緯がある.以前からアガリクス茸には免疫刺激性,抗酸化性,抗変異原生,抗腫瘍性などの効能が確認されている.齧歯動物の腫瘍細胞株における抗腫瘍効果と対比してみると,アガリクス茸はヒト腫瘍細胞株に対してはわずかに弱~中程度の抗がん作用を示すにとどまったのに対して,アガリクス茸から抽出された分子量の小さい低分子画分においては,高いがん予防効果が確認されている.アガリチンの安全性問題については,Big Blue トランスジェニック F344 系ラット(遺伝子導入)を用いた試験方法(標的臓器での遺伝子突然変異誘発性の検討)で精査されており,結果アガリチンも K 社のアガリクス茸にも遺伝子突然変異誘発性はなく陰性と報告されている.さらに,アガリチンの代謝物と考えられる4-(hydroxymethyl)phenylhydrazine (HMBD) から生成される既知の DNA 付加体である,8-HMP-dGuo および 8-HMP-dAdo の形成の有無についての DNA 付加体試験も実施されたが,結果としてアガリチンおよび K 社製品を投与した Big Blue Rat の肝臓および腎臓からゲノム DNA を抽出し解析を行ったが 8-HMP-dGuo および 8-HMP-dAdo は一切検出されなかったと報告されている.これら最新の試験結果にはまったく議論の余地はない.以前おこなわれていた K 社アガリクスにおける Ames 試験が陽性であった結果についても,あくまでも偽陽性であったと推測される.したがって,最新の変異原性試験結果と共に 2 年間の長期発がん性試験の陰性結果をもってアガリチンもアガリクス茸(品質管理された検体)のいずれにおいても変異原性も発がん性も全く無い事が強く示唆されたのである.アガリクス茸摂取における,化学療法施行中のがん患者の QOL の改善をみた臨床試験においては,化学療法により免疫抑制状態にある患者の免疫刺激性の改善を示唆している.アガリクス茸摂取後,質問調査形式による 782 人の癌患者の QOL 分析結果によると,アガリクス茸の摂取によりがん患者の QOL が改善している事が報告されている.したがって,がん患者における,がん化学療法(抗がん剤)との組合せにおけるアガリクス茸摂取が相乗効果的にがん化学療法の結果を高める可能性があると推測する事は妥当であろう.従来のがん治療や成人型糖尿病へのアガリクス茸摂取における臨床効果は期待されるものがある.がん治療における補完代替医療としてアガリクス茸摂取の利点やアガリクス F500 分画の化学的がん予防効能を評価分析していく上で,さらなる臨床試験が必要である.

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© 2009 日本補完代替医療学会
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