抄録
5配位錯アニオン、 [PtX(hfac)2]- (X = Cl, Br, I, hfac = hexafluoroacetylacetonate)の、溶液中における分子内配位サイト交換に関するab initio計算を行なった。まず5配位構造の最適化を、考えられる3つの構造について行なったところ、X線結晶解析されている四角錐型構造が最も安定で、計算値は構造データをよく再現することがわかった(Tables 1, 2)。次に分子内配位サイト交換運動(Scheme 1)で考えられる3つの経路の各三角両錐型遷移状体のエネルギーを計算した。このうち、頂点位置のO-ドナーがXに対してシスあるいはトランス位のO-ドナーを置換するPath AとBとが実際に起こると予想され、Path Aの速度は、Cl > Br > I、Path Bの速度は、I > Br > Clとなり、温度変化NMRスペクトルの結果から予測された順に一致した(Table 3)。前者はハライド配位子のシス効果、後者はトランス効果の順を表すものであり、シス効果の順がトランス効果のそれと逆であることは大変興味深い。