Journal of Computer Chemistry, Japan
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ハイライト
SCCJ Cafe –Season 4–分子のかたち(5)「分子閲覧ソフト」
工藤 高裕
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2015 年 14 巻 5 号 p. A34-A37

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Abstract

1 分子を見るためのソフトウェア

これまでに,いくつものタンパク質立体構造を示してきましたが,これらの図は「分子閲覧ソフト」(分子ビュアー,molecular viewer)と呼ばれる分子視覚化ソフトウェアを使って作成したものです.今回はそのソフトウェアについて紹介します.

2 入力データ

分子閲覧ソフトの入力データである「分子構造データ」にはいくつかの書式があります [1].現在,多くのソフトウェアが対応している「PDBフォーマット」ですが,廃止の方向性が示されている書式であることに注意してください.将来的には入出力データの書式に「PDBx/mmCIF」や「PDBML」を使うようになりますので,これらに対応したソフトウェアを利用することをお勧めします.

3 ソフトウェアの動作環境と特徴

ソフトウェアを動作させる上で必要とされる環境にいくつかのタイプがあります.以下に特徴などを示します.

3.1 Java系

コードがJavaで書かれているソフトウェアです.実行にはJava実行環境(Java Runtime Environment,JRE)が必要ですが,逆にJREさえあればOSに依存なく使えるところが利点です.これまで単独ソフトウェアとして,あるいはウェブページに埋め込むアプレット(applet)としても広く使われてきました.一方,短所はモバイル環境に対応していないことや,最新のブラウザにおいてアプレット実行に対する制約が厳しくなってきていることが挙げられます.PDBjで開発しているjV [2]や,オープンソースで開発が進められているJmol [3]がこの系列のソフトウェアになります.なおJmolは多言語対応が進んでいて,メニューなどを日本語などで表示することができます.

3.2 JavaScript系

コードがJavaScriptで書かれているソフトウェアです.JREは必要とせず,基本的にはウェブブラウザが動作すればモバイル環境も含めOSの種類に関係なく動作しますが,大きな分子の動作がスムーズにいかないなどパフォーマンス面でJava系より見劣りします.JmolをJavaScriptに移植したJSmol [3]がこのタイプになります.

3.3 WebGL系

JavaScriptにWebGL (Web Graphics Library)を追加したものです.ウェブブラウザ上で動作するという点では前項と同じです.動作は前項のタイプより軽快ですが,コマンドで細かく表示を調整する機能を備えたソフトウェアはまだないようですので,今のところ気軽に分子を眺める用途が中心になると思います.また,一部古い環境には対応していません.PDBjで開発しているmolmil [4]や,オープンソースのGLmol [5]などがこれに該当します.

3.4 モバイル端末用

AndroidやiOSなどのモバイルOSにアプリをインストールして使うタイプのもので,Google PlayやApp Storeなどのアプリ提供サイトから入手できます.GLmolのAndroid 版であるESmolやNDKmol [5],後述するPyMol [6]のiOS用アプリPyMol on the iPad [7],Android/iOS用がそれぞれ提供されているRCSB PDB Mobile [8]などがあります.展示などでタブレット端末を使い,手軽に分子を見てさわってもらうといった用途にも使えます.

3.5 パソコン用

その他パソコンにインストールして使うタイプのものがあります.原則として追加のソフトウェアは必要としません.RasMol [9],PyMOL [6],UCSF Chimera [10]などが挙げられます.これまで紹介したものに比べ高度な細かい操作ができますが,フリーウェアではないものもあります.例えば,UCSF Chimeraは大学などに所属する人に限りフリーで使えるソフトウェアです.

4 どれを使えばいいのか

いくつかソフトウェアを挙げましたが,実際どのソフトを使ったらいいのか迷われるかも知れません.どれがいいかというのは目的や人の好みにも依存しますが,大まかに次のようなことは言えるのではないかと思います.

ちょっとパソコンで分子を見てみたいという程度であれば,第1回 [11]で紹介した万見 [12]などウェブサービスを使うのがいいでしょう.ソフトウェア本体をインストールする必要はなく,ウェブブラウザさえあればみることができます(Java系のソフトウェアが使われている場合はJREの事前インストールが必要です).

モバイル端末であれば,利用するOS環境に対応したアプリをインストールしてみるのもいいかも知れません.

論文に掲載するなどより詳細な説明図を作成するのであれば,パソコン用ソフトウェアをインストールして作図するという方法がよく用いられているようです.

5 図の作り方 − jV の場合

では,第2回 [13]Figure 4で示したヘモグロビンの図をjVで作成する具体的事例を紹介することにします.JREは既にインストールされているものとします.

jVポータルページ [2]にアクセスし,Figure 1に示すように「バイナリファイル(jar版)」リンクをクリックし,利用規約に合意して頂くと,ダウンロードページにアクセスできます.

Figure 1.

 The procedure to get jV application.

zipとtar.gzの2種類の圧縮形式で提供されていますが,どちらも内容は同じです.Windowsの場合はzipの方が追加ソフトをインストールする必要がなく便利かと思います.

圧縮ファイルを解凍し展開して,起動スクリプトを実行すればjVを起動することができます.利用する起動スクリプトはOSによって異なります.各OSの起動スクリプトをTable 1に示します.環境に応じた起動スクリプトを実行すればjVを起動することができます.

Table 1.  The scripts for jV startup
OS Startup Script
Windows startup.bat
Mac OS startup.command
Linux startup.sh

Table 2. に操作コマンドによる操作を紹介します(一部メニュー操作).jVの操作コマンドについて詳しくはマニュアルページ [14]を参照下さい.

Table 2.  The commands and menu actions to create the image in the Figure 2 .
Commands Comments
load ftp 2hhb[Open − Remote]-[PDBID] PDBID 2hbbの構造データを読み込む
background white 背景を白にする
wireframe off 針金表現を消す
select protein タンパク質だけを選択する
[Display]-[Backbone] 主鎖表現にする
select protein & *:A A鎖のタンパク質部分を選択する
color magenta 赤紫色にする
select protein & *:B B鎖のタンパク質部分を選択する
color gold 金色にする
select protein & *:C C鎖のタンパク質部分を選択する
color skyblue 水色にする
select protein & *:D D鎖のタンパク質部分を選択する
color blue 青色にする
select [HEM] ヘム部分を選択する
cpk 各原子を球で表示する
select 6:B | 6:D B鎖6番残基とD鎖6番残基を選択する
[Display]-[Ball & Stick] 棒と球で表現する
color cpk 原子別配色にする
rotate z 90 Z軸を中心に90°回転する
rotate y 180 Y軸を中心に180°回転する
[File]-[Save]-[JPEG] 表示内容をjpeg形式の画像に保存する
Figure 2.

 The static image created by the procedure described in the table 2.

Acknowledgment

これまで全5回に渡ってタンパク質を始めとする生体分子の構造データに関して紹介させて頂きました.紹介しきれなかった部分もたくさんありましたが,今後はオンラインヘルプの充実化をより進めるなど何らかの形で更に情報をご提供して行きたいと考えています.最後になりましたが,このような機会を与えて下さった日本コンピュータ化学会の皆さまに感謝します.

References
 
© 2015 日本コンピュータ化学会
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