Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
マルチスケール計算化学に基づく汚れ付着シミュレーション技術の開発
畠山 望長山 千恵子畑 北斗石澤 由紀江佐藤 亮ボノー パトリック三浦 隆治鈴木 愛宮本 明
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2016 年 15 巻 6 号 p. 221-222

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Abstract

Plumbing stains grow up from invisible attachment of urea and urolith in the molecular level to biofilms in which bacteria adsorb such nutrients and secrete extracellular polymer substances. In order to understand and control such biofilm growth, we have developed a multiscale simulation that can analyze from adhesion of stains on the molecular scale to accumulation of biofilm on actual scale. In the present study, the biofilm growth and peeling by shear flow was successfully simulated for the condition of typical toilet use.

1 はじめに

便器などの生活空間等における水回りの汚れは,分子レベルの目に見えない汚れが起点となり,最終的にバイオフィルム(Biofilm; BF)と呼ばれる汚れに成長する.本研究では,分子スケールの汚れ付着から,実スケールのBF汚れ蓄積までを解析できる,マルチスケール汚れ解析シミュレータを開発した.典型的な便器の使用条件を想定して,汚れの成長や剥離の挙動を解析することによって,理論に基づいた汚れの特性評価が可能となった.

2 計算方法

分子スケールの計算には,独自に開発した超高速化量子分子動力学法(Ultra-Accelerated Quantum Chemical Molecular Dynamics; UA-QCMD)を用いた [1,2].機材表面をアモルファスシリカ(SiO2)でモデル化し,それに吸着する尿石(CaHPO4),尿素((NH2)2CO)に加えて,BFの細胞外高分子化合物(Extracellular Polymeric Substances; EPS)に含まれる多糖類として,アルギン酸をモデル化した(Figure 1 (a)).水との競争吸着計算では,カノニカルモンテカルロ法(Canonical Monte Carlo; CMC)による独自開発のソフトウェアMONTAを用いた [1,3].

Figure 1.

 Schematic of multiscale, multiphysics biofilm growth simulation.

実スケールの汚れ解析および可視化は,機材表面の菌体を基に成長するBFを球状粒子として表現して,キネティックモンテカルロ法(Kinetic Monte Carlo; KMC)によるプログラムを新規に開発して使用した(Figure 1 (b)).成長モデル式 [4]やせん断応力による剥離式 [5]を組み込み,これに従う時間発展を求めた.

水流のせん断応力により,BFの内部結合力あるいはBFと基材間の結合力より強い剥離力が働く場合には,BFが剥離する.実験に使われるフローセルをモデル化して,数値流体力学(Computational Fluid Dynamics; CFD)により,せん断応力を評価した(Figure 1 (c)).計算には,市販のCFDソフトウェアのPHOENICSを用いた.

3 結果と考察

機材表面として一般的な便器を想定し,実際のOH基の表面数密度に合わせたアモルファスシリカ表面モデルを作成した(Figure 2 (a)).CMC法により,機材への尿素の吸着計算(Figure 2 (b))および尿石も存在する場合の尿素の吸着計算(Figure 2 (c))を行い,それぞれ水が存在する場合に,より機材への吸着が強くなることが明らかとなった.また,吸着EPSについてUA-QCMD法により量子化学計算を行ったところ,EPSがアモルファスシリカへの吸着により安定化するという結果を得た(Figure 2 (d)).

Figure 2.

 (a) Surface model of hydroxyl-terminated a-silica, (b) adsorption of 2 urea and 10 water molecules to the a-silica surface, (c) adsorption of 2 urea and 10 water molecules to urolith attached to the a-silica surface, and (d) adsorption of arginic acid molecules to the a-silica surface.

これらの結果と,CFD計算によるせん断評価を融合した,実スケールのKMC計算を行った結果を,同様の条件における実験のSEM画像と併せてFigure 3に示す.Figure 4に示したBFの成長曲線も実測とよく一致しており,一か月単位のBF成長を評価できるようになった.今後,実験との比較により高精度化を進め,汚れの成長を抑制する材料あるいは実使用条件の最適化などを提案するツールとして活用できるよう,完成度を高める予定である.

Figure 3.

 Calculated snapshots of biofilm growth after (a) 2 hours, (b) 12 days, (c) 35 days and corresponding SEM observation.

Figure 4.

 Calculated volume development of biofilm.

参考文献
 
© 2017 日本コンピュータ化学会
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