Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
スマートフォンを用いたSPM可視化アプリケーションの開発
八木 徹神部 順子長嶋 雲兵青山 智夫
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2016 年 15 巻 6 号 p. 227-228

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Abstract

A smartphone application for observating atmospheric state and visualizing suspended particle matter (SPM) was developed. By using the ratio of B/R, G/R and B/G, it was confirmed that the nonlinearity in the developed image can be canceled and the distribution of scattered light in the atmosphere can be observed.

1 はじめに

これまでに我々は,デジタルカメラで撮影した画像から大気中の浮遊粒子状物質(SPM)を可視化する技術を開発してきた [1].デジタルカメラ受光部の赤(R),緑(G),青(B)の各信号の輝度値を用いてB/R比やG/R比を計算したり,画像の強調処理を行いSPMの分布を解析した.輝度値の範囲はカメラにより異なるが,各色8bit∼14bitとなる.また,大気中のSPM量を定性的に判定する基準としてのB/R比やG/R比を示してきた [2,3].さらに,乗鞍岳における高層大気の観測 [4]や,海中の画像解析 [5]を実施し,様々な解析に応用してきた.

近年,スマートフォンの性能向上は著しく,高解像度のデジタルカメラが内蔵されている.その他にも,GPSによる座標情報の取得や精度良い時刻の自動設定が可能であるなど,個人に最も身近な観測装置として,大きな可能性を持っている.このスマートフォンを用いて,大気の状態を解析するアプリケーションの開発を行った.

2 アプリケーション開発

今回は,iPhoneで動作するiOSアプリケーションの開発を行った.開発環境はiOS9で,使用言語はSwift2.1である.開発するアプリケーションは,大きく分けて画像撮影,データ管理,データ解析の3つのフェーズで構成されている.画像撮影では,フォーカス,露出,ホワイトバランスの値をマニュアルで設定できるようにした.露出はiPhoneでは絞りは固定であるため,ISOとシャッター速度を調整する.また,ホワイトバランスは,B/Rなど輝度値の比を計算,比較するため,色温度を任意の値で固定する必要がある.このような撮影条件の制御のために,iOSでのオーディオビジュアルデータに関する作業を細かいレベルで行うAVFoundationフレームワーク [6]を利用した.これにより,iOS8以降で実装されたManual Camera Controlsを用いて柔軟な設定を行うカメラアプリケーションを作成した.

アプリ内の画像データはUIImageデータで保持し,必要に応じて画像のbitmapデータを取得してB/R,G/R,B/Gの各成分を求めて解析を行った.また,画像の保存にはPNGフォーマット(24bit RGB)を用い圧縮による情報の損失を防いだ.さらに,OpenCVライブラリを活用し,チャンネルごとの強調処理など,きめ細かな画像解析を行えるようにした.

画像の強調は,各ピクセルのチャンネルごとの値(輝度値)を以下の式で変換することで実施した.

・quo ((Bi*f), 255)が偶数の場合

Bf = mod (Bi*f, 255)

・quo ((Bi*f), 255)が奇数の場合

Bf = 255 − mod (Bi*f, 255)

ここで,変換前の輝度値をBi,変換後をBf,変換係数をf,quoは商,modは剰余を求める計算を表す.以下の解析ではf = 64としている.

3 画像解析の例

作成したアプリにより撮影した画像と,解析の例を示す.Figure 1-(1)は,本アプリを用いて撮影した快晴の空の画像である.上空は青空の色が濃く,地上付近は明るく白っぽい色となっている.

Figure 1.

 Image of clear sky at Tsukuba on Oct 15, 2016. 7:23. (1) original image (left), (2) emphasized image (right)

Figure 1-(2)は,カラーのオリジナル画像をモノクロ化し,強調処理したものである.大気中の散乱光の分布が,上空から地上にかけて規則的に推移している様子が見える.また,地上付近には上空とは異なる散乱光分布を示す層状の領域が存在している.これは,後述するように画像の非線形性によるものと考えられる.

次に,オリジナル画像の各ピクセルを,B/R比に変換した画像をFigure 2-(1)に示す.全般に暗くコントラストの低い画像となっている.その強調画像をFigure 2-(2)に示す.オリジナル画像に見られた,地上付近の層状の構造が消滅していることがわかる.

Figure 2.

 Image of clear sky at Tsukuba on Oct 15, 2016. 7:23. (1) B/R ratio image (left), (2) emphasized image (right)

iOSのAVFoundationで得られる画像データは,べイヤー型のセンサーで受光したピクセルデータそのままの値ではなく,現像処理を行い,8bit bitmapに変換された[0,255]の範囲のデータである.このため,輝度値の大きな領域では,観測対象の空の散乱光強度と,画像の輝度値の間の対応関係に線形性が失われているものと考えられる.Figure 1-(2)で地上付近に見られる層状の構造は,上空と異なる大気の層が存在し,散乱光の分布が異なる状態になっているわけではなく,画像の非線形性によりみられたものと考えられる.

このような現像済み画像に対して,B/R比を求めることにより,非線形性がキャンセルされる様子が確認できた.

4 まとめ

フォーカス,露出,ホワイトバランスの値を任意に設定した撮影を行い,B/R,G/R,B/Gの比を求め画像の強調処理を行うiOSアプリケーションを開発した.

今後は,アプリケーションをiOS10に対応させ,GPSによる緯度経度や撮影時の方位,仰角などのデータを合わせて保存できるよう機能を拡張する.まずはAd hocでの限定的な配布でテストを重ねる予定である.

さらに,日常的に様々な場面で大気画像の記録を行い,大気の状態を解析するための基礎としていく予定である.

参考文献
 
© 2017 日本コンピュータ化学会
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