Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
DNAの電子状態計算
寺前 裕之青木 百合子
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2017 年 16 巻 5 号 p. 157-159

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Abstract

As an electronic structure calculation of the B-type model-DNA, the calculation of (poly-(guanine) poly-(cytosine)) model polymer is performed by means of the ab initio crystal orbital method adapting the screw axis-symmetry which results in great reduction of computational efforts. All sugar backbones and sodium phosphate are included in the calculations. Energy band structures are calculated at the 6-31G level. For a comparison, the calculation without sodium phosphate is also performed. The resultant energy band structure is very different from that of the original one and it should be concluded that the alkali phosphate is necessary to describe the electronic structure of model-DNA.

1 はじめに

Ab initio分子軌道法により,糖鎖とカウンターイオンまで含めたDNAの二重らせん構造について,量子化学計算を行って生体高分子としてバルク状態でのDNAの電子構造を求めることは古くから検討されている.

DNAの計算を分子軌道法を基に行う場合には,tight binding法を使用したエネルギーバンド計算による方法,いわゆる結晶軌道法がある.さらにDNAのようにらせん構造を有する一次元高分子はFigure 1に示したように,らせん角を利用することで,エネルギーバンド計算が行えるが,このような大規模計算はOtto, Clementi, Ladikによる先駆的研究 [1]と我々の先行研究 [2,3]は存在するが,一本のらせん鎖またはリン酸基およびカウンターイオンを含んでいないものに止まっていた [1].現在までにカウンターイオンまで含めた二重らせん構造のab initio計算は行われていないと思われる.

Figure 1.

 Translational vector and helix angle of polymer.

実際に計算を行っていくモデルDNAについては,二重らせんモデルを対象としている.DNA二重らせんは塩基配列,塩基組成,相対湿度,カウンターイオンの組成や濃度により,A, BまたはC型などを取る.一般には水溶液中で安定化するB型が多くの場合に見られるため,本研究で考慮しているのもB型である.

本研究ではこれまで有限クラスターとしてしか取り扱われていなかったDNAを無限系として取り扱うことにより,その電子状態と導電性の関係などを解析することを最終的な目的としている.ただし,本論文は途中結果であり,いくつかの特徴的な結果について述べる.

2 計算方法

一次元結晶軌道法を用いた計算を行う.結晶軌道法では,Bloch基底関数を用いる.   

ψ n ( r , k ) = s = 1 basis C sn ψ n ( k ) ϕ s ( r , k )

ここでrは電子の座標,kは波数ベクトルである.Bloch基底関数は単位セル中の各AOのBloch和で表される.   

ϕ s ( r , k ) = 1 2 N + 1 j = N + N exp ( i k aj ) χ s ( r ja )

k空間でのエネルギーは,以下のように表される.   

E elec 2 N + 1 = a 2 π π a π a n occupied C n * ( k ) { H ( k ) + F ( k ) } C n ( k ) d k

実空間でのエネルギーの表現は次式で表される.   

E total 2 N + 1 = 1 2 j = N N r basis s basis ( H rs 0 j + F rs 0 j ) P rs 0 j + 1 2 j = N N A atom B atom Z A Z B | R A 0 R B j |

ここでH, F, Pは実空間での一電子ハミルトニアン,Fock,電子密度の各行列要素を表し,通常の分子軌道計算で用いられるものと同じである.ここでらせん対称性をポリマーが持っているとし,対称軸がz軸であるとすると,通常のp軌道の代わりにpxおよびpyを次式のように,   

p ¯ x j = p x j cos ( j θ ) + p y j sin ( j θ )
  
p ¯ y j = p x j sin ( j θ ) + p y j cos ( j θ )
とすることで小さいユニットセルを用いて計算可能となる.

基底関数は6-31Gを用い,最も簡単なDNAモデルとしては,二重らせん状態のグアニン-シトシンの塩基対からなるモノヌクレオチドポリマー,poly-(dG) poly-(dC)を計算した.らせん角度は36度とした(10ユニットで1ターン) [4].隣接セル数については5としているが,6-31G基底でSCFの収束解が得られているため,ほぼ充分であると当初は考えた [4].

3 結果と考察

リン酸基およびカウンターイオンを含むものと含まないものを計算して比較した.エネルギーバンド構造と状態密度をFigure 2に示す.

Figure 2.

 The energy band structures and the density of states of poly-(dG) poly-(dC) with and without sodium phosphate.

イオンを含むものと含まないものでは特に価電子帯上端と伝導体下端近傍において,バンド構造が大幅に違い,状態密度もそれに伴って変化しているのがわかる.従って,モデルDNAの計算においては,リン酸基およびカウンターイオンが重要な働きをしており,省略することができないことがわかる.

Table 1には考慮する隣接セル数について全エネルギーなどの数値がどのように変化するかを示した.50隣接セルまで考慮してもエネルギー値の収束はかなり遅いので計算上何らかの問題点が生じている可能性がある.ただし,50隣接セルを考慮すると伝導体下端の値が正から負に転じており,伝導性を論じる点では興味深い.今後はこれらのエネルギー収束を加速する方法を開発する必要があると思われる.

Table 1.  Test calculations of poly-(dG) poly-(dC)
N total energy time[s] top of VB bot. of CB band gap
5 -3070.40145 10435 -0.15397 0.01266 0.16663
10 -3070.40179 20690 -0.15210 0.00906 0.16116
15 -3070.40243 30945 -0.15264 0.00722 0.15986
20 -3070.40277 40870 -0.15334 0.00539 0.15873
25 -3070.40314 51126 -0.15392 0.00396 0.15788
30 -3070.40347 61744 -0.15435 0.00267 0.15702
40 -3070.40419 81644 -0.15497 0.00050 0.15547
50 -3070.40502 102281 -0.15539 -0.00140 0.15399

本研究においてはモデルDNAの電子状態計算をらせん構造を使用したエネルギーバンド計算により行った.リン酸イオンおよびナトリウムイオンを取り去った計算を行ったところ,バンド構造に大きな変化が生じたため,これらのイオンを省略する事は出来ないと思われる.今後は別のモデルDNAについて同様の計算を行っていく予定である.

Acknowledgment

本研究はJSPS科研費 16K05666の助成によって行われた.

参考文献
 
© 2018 日本コンピュータ化学会
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