Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
III-V族ヘテロ6員環からなるGaPおよびGaNナノ構造体の分子構造と電子構造
小路 謙介松永 雄樹武田 京三郎
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2017 年 16 巻 5 号 p. 149-151

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Abstract

We computationally design GaN and GaP heteroatom nanostructures of nanoribbons (NRBs), nanorings (NRGs), and nanotubes (NTBs), and study the atomistic and electronic structures theoretically. First-principles calculations demonstrate that GaN finite NRBs have a flat molecular plane whereas GaP NRBs break the flatness of the NRB molecular planes. Although an NRG is produced by rolling an NRB (head to tail), the GaP system produces a specific NRG having a "magic ring numbe" whereas the GaN system can freely change the NRG diameter. A NTB stacked by these NRGs has a potential to be a one-dimensional semiconductor having a band gap of 1.5 ∼3 eV and effective mass ratios 0.3 ∼1.7 eV for an electron and a hole.

1 序

近年,グラフェンやカーボンナノチューブといった炭素原子骨格を持つ物質が発見され,新奇なナノ構造を有する物質群が注目されている.我々はIII-V族ヘテロ6員環に着目し,ヘテロ原子骨格を有するナノ構造体の可能性とその電子論的特徴の抽出による計算物質探索を行っている [1].今回 III 族元素としてGa,V 族としてNおよびPを想定し,GaN 並びに GaP ヘテロ 6 員環単位からなるナノリボン(NRB),ナノリング(NRG),ナノチューブ (NTB) の電子構造と分子構造を理論検討した.

2 方法

密度汎関数法(B3LYP/6-311 g)による全エネルギー計算を行い,振動解析により安定構造を決定した.NRB に関してはその平面性に着目し,また分子面の湾曲構造から NRG の可能性を検討した.ヘテロ6員環連結部での原子配座から,π電子欠損,余剰,補償の三種系を想定した.これら三種の原子配座は,有限 NRBオリゴマー以外では,何れの原子配座でも等化学量論比(III:V = 1:1)となるのが特徴である.

3 NRBs

GaN オリゴマーは連結部原子配座に依らず平面構造を示した(Figure 1).一方 GaPオリゴマーは,欠損系では平面性を保持するが,補償系では重合化に伴いリボン面が湾曲する.補償系ではリボン両側が Ga あるいは P 原子の連鎖となるが,この湾曲はそれら原子半径の差異による剛体球モデルでは説明できない[1].構成元素の原子半径差とΔd III 族原子への電子の流れ込みΔσ を考慮する事により,III-V 族ヘテロ NRB 分子面の平面性を体系化する事に成功した(Figure 2).これに対し余剰系では,単位6員環の平面性は保持されるものの,隣接単位間では分子面が交互に直交する特異な連鎖構造を示す(Figure 1).

Figure 1.

 Stable molecular structures of GaN and GaP finite NRB oligomers.

Figure 2.

 Planarity and non-planarity of III-V hetero NRBs

Figure 3には両物質群における重合化エネルギーの変化を示す.GaN-NRB の重合化エネルギーは二量化以降ほぼその値が収束する.その収束値よりエネルギー安定性は欠損系,補償系,余剰系の順と予測できるが,三者の一致は認められない.これは無限連鎖系では三種の NRB の化学量論比はいずれも1:1で等価になるものの,各安定構造に差異が生じた為である.GaP の重合化エネルギーも三量化以上でほぼ一定値に収束する.しかしながら GaP-NRB の安定性は補償系が最も大きく,次に欠損並びに余剰系と続く.

Figure 3.

 Polymerization energy of GaN and GaP NRB oligomers.

これら GaN-および GaP-NRB の電子状態は平面/非平面構造に依らず共通であり,HOMO 並びに LUMO はリボン面直の/擬軌道からなる.補償系は連結部がIII-V族ヘテロ原子結合となり,リボン両側はIIIあるいはV族原子が配位するため,HOMO はオンサイトエネルギーの低いV族原子位置に波動関数が局在し,LUMO はIII族原子位置に波動関数が局在する.

GaN-NRB は三種とも平面構造を採るので,無限連鎖 NRB のバンド構造を算出した(Figure 4).π軌道は赤,σ軌道は青で示す.欠損並びに余剰系(D2h)と補償系(2ν)では対称性は異なるが,これら三種の GaN-NRB は何れもシンモルフィックである.このため,X点では非縮退状態となり,欠損並びに余剰系は電子・正孔からなる直接遷移型,補償系はπ正孔とσ 電子からなる間接遷移型バンド構造を与える.こうして GaN の NRB はeVのエネルギーギャップを持つ一次元半導体リボンとなり得る.

Figure 4.

 Band structures of GaN and GaP infinite NRBs

GaP-NRB は欠損系のみが平面性を保ち連鎖結合するが,余剰系は各 6 員環単位がその分子面を交互に直交しながら連鎖する.従って余剰系の単位胞は 6員環単位の二量化に相当する.このため系は螺旋対称を持ち,非シンモルフィックとなり,X点では二重縮退が要請される.Figure 4に余剰系のバンド構造を示す.二量化の為 8 個の擬πバンドが生ずるが,その内 e表現を有する二つの分散状態は完全に縮退し,且つ価電子帯内では局在化,伝導帯内では非局在化する.この特異な電子状態は 6 員環単位内軌道が非結合性(NBO)軌道で且つ互いに直交連鎖するためである.従って同じ e 表現を有する状態に対しては真逆となり,価電子帯内では非局在化するのに対して伝導帯内では局在化する. この結果,欠損系GaP-NRBの伝導帯下端は e 表現を有する局在化した σ BO 軌道となる.一方,価電子帯上端では主軸方向によく広がった擬 状態となる.この価電子帯上端の非局在化は,二量化における連結部でGaとPが同一面に存在しないため,各 6 員環分子面は直交するもののppσ 結合が誘発され,分子軸に沿って波動関数が広がるためである.

4 NRGs

湾曲構造を示すGaP補償系オリゴマーにおいて各重合度での湾曲率を求め,対応する閉環直径を算出したところ(Figure 5),15Å程度の直径と予測された.この環径を与える補償系 GaP-NRG は重合度11程度であるため,その連鎖数近傍での該当 NRG の構造最適化を実行した.その結果,補償系 GaP-NRG は予期したとおり重合度11 (11NRG)で最小エネルギーを与え,且つその環径はNRBオリゴマーの湾曲率から推測される値(15Å)ともよく一致した. これに対しGaN-NRBオリゴマーは何れも平面性を保つことから,各重合度での閉環構造の最安定構造を決定した(Figure 5).BN-NRG同様[1],何れの連鎖数でも閉環安定構造が存在し,かつ補償系GaP-NRGに見られたような最安定構造を与える連鎖魔法数は存在しない.これは,補償系GaN-NRGはいずれの連鎖数でも閉環形成が可能であることを示唆する. GaN-およびGaP-NRBのフェルミ面近傍で見られたπ電子状態はこれらNRGでも保存され,HOMO及びLUMO状態共に環周回方向の ppπ 結合から構成されるπ軌道である.

Figure 5.

 Energetics of GaN and GaP NRGs

5 NTBs

これらのNRGが無限積層したNTBのバンド構造を検討する.エネルギー的に安定なIII-V族元素が交互に配列した補償系(Figure 3)からなるGaN-およびGaP-NTBを考察する.それぞれのNRGを三層積層させ,安定積層構造を決定した後,中央部NRGを抜き出し単位胞とした.GaP-NRGは魔法数11で最安定(Figure 5)なので,NTBはこの11NRGを積層させた.一方GaNは魔法数を持たない為,構成単位数を変化させ複数のNTBを考察した.

Figure 6にチューブ軸方向のバンド構造を示す.GaN-NTBは20-NRGを積層されたものである.GaNおよびGaP共にそのFermi面近くの電子状態は構成NRGのHOMOおよびLUMO状態が保存され,チューブ中心から管壁に向いたπ軌道からなる.算出されたバンド構造の E-k 分散から明らかなように,このπ軌道は隣接原子間 ppπ 結合を介してチューブ軸方向によく広がり,価電子帯上端正孔並びに伝導体下端電子の有効質量は静止質量と遜色がない.特にGaN-NTBの伝導電子の有効質量比は0.3程度となり,チューブ軸方向の高電気伝導性が期待できる.この電子状態の非局在化はNTB環径には基本的に依らない.GaP系はそのNRGの魔法数より11NRGからなるNTBの電子構造を探索したが,そのバンドギャップは1.7 eV程度である.このバンドギャップと同程度の値を与えるGaN-NTBは20NRGからなるNTBで可能である.

Figure 6.

 Band structures of GaN and GaP NTBs

参考文献
 
© 2018 日本コンピュータ化学会
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